日本版CCRC「ホシノマチ団地プロジェクト」とは?

CCRC(=Continuing Care Retirement Community)とは、元気な高齢者が入居して生活を送る共同体のこと。
日本版CCRCは「生涯活躍のまち」と名付けられ、元気な都会の高齢者が地方に移り住み、地域住民との交流を図りながらアクティブな生活を送るもので、地方創生の観点からも国が推進しています。
また、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「目標11 住み続けられるまちづくり」に合致した取り組みでもあります。そんな「生涯活躍のまち」のひとつ、長野県佐久市の「ホシノマチ団地プロジェクト」が進行しています。
「ホシノマチ団地プロジェクト」の企画・運営を手掛ける、株式会社みんなのまちづくり 代表取締役の伊藤洋平氏に、これまでの経緯や概要などについて伺いました。

生涯活躍のまち「ホシノマチ団地プロジェクト」とは

Q:まずは、みんなのまちづくりという会社について教えてください。

A:株式会社みんなのまちづくりは2016年4月に設立した会社で、「生涯活躍のまち事業」をメインに街づくり全般に取り組んでいます。私自身が行政での経験があることから、行政の立場を理解してうえで、民間企業として街づくりに参画できることが強みとなっています。

Q:日本版CCRCといわれる「ホシノマチ団地プロジェクト」の概要を教えてください。

A:長野県佐久市は、2015年から地方創生の大きな柱となる「生涯活躍のまち事業」に取り組み、最初に内閣府に認定された7市区町村のうちのひとつです。佐久市では農村型と都市型の2種類の事業を実施する予定です。農村型の地域が臼田地区でメインプロジェクトが「ホシノマチ団地プロジェクト」になります。2018年12月には、「ホシノマチ団地プロジェクト」は国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進モデル事業に選定されたことで補助金の支給を受けられることになりました。

Q:「ホシノマチ団地プロジェクト」に、みんなのまちづくりはどういった経緯から参画されることになったのでしょうか。

A:2016年に佐久市臼田地区生涯活躍のまち事業化検討委員会が立ち上げられ、当時、佐久市から業務委託を受けていた会社からの委託で、私個人も委員として参加していました。私は太極拳ができるのですが、その当時新しくできた公共施設「臼田健康館」で教えて欲しいという依頼があり、週1回といったペース教えていました。そのため、2017年3月に委員の仕事が終わった後も太極拳を教えているので、佐久市との縁は続いていました。

その後、2018年1月に「ホシノマチ団地プロジェクト」の運営を担う事業者のプロポーザルの公募があり、みんなのまちづくりとして応募して選定されたのです。

市営住宅を移住者のためのサ高住に

Q:実際に「ホシノマチ団地プロジェクト」はシニアタウンとしてどういった住まいとなるのでしょうか。

A:ホシノマチ団地は、市営住宅の24戸の住戸のうち、16戸をサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に改修します。
本年度は1階の4戸、来年は2階の4戸、再来年は3・4階の8戸を改修していく予定です。一部をサ高住とした分散型サ高住という点が特徴のひとつです。

また、通常、サ高住に入居できるのは60歳以上で、主に介護が必要な人が入居しますが、ホシノマチ団地は地域再生法に定める特例により、50歳以上の移住者が入居できる点も大きな特徴です。サ高住は25平方メートルくらいからのワンルームが多いのですが、1LDKで約54平方メートルと3DKで約71平方メートルという広い部屋タイプになるので、夫婦でも十分に住むことができます。

サ高住は安否確認サービスと生活相談サービスの提供が義務付けられていますが、日常の生活支援サービスや緊急待ちサービスなども提供し、特別養護老人ホームに入れない人が待機する場所となっているのが実情です。ホシノマチ団地の入居者の募集では、「サービスはいらない」という声がありましたが、サ高住とし運営していくため、制度的に家賃とサービス料を徴収することになっています。そこで、生活を送るのに必要な手段を案内する、地域の方々とスムーズにコミュニケーションがとれるように仲介するといったサービスを提供することを考えています。

ホシノマチ団地は12月1日から入居申し込みの受付を開始する予定です。

市営住宅の空き家解消にも貢献

Q:「ホシノマチ団地プロジェクト」でみんなのまちづくりはどのような役割を果たすのでしょうか。

A:佐久市臼田地区活性化共同企業体として、弊社と株式会社堀内組で事業を受けています。
株式会社堀内組はリノベーション工事の施工のほか、200年以上地域に根差してきた会社ですので、今回移住者を迎えるにあたって地域のネットワークを紹介していただく役割を担っています。弊社は事業計画の企画から、ロゴやパンフレットの作成、ホシノマチ団地の内装の決定など運営全般を行っています。移住者募集のセミナーにも講師として参加するなどPR活動にも関わって来ました。

「ホシノマチ団地プロジェクト」の事業資金は国からの補助金と事業者の負担によって賄われています。市営住宅の空き家を市の税金を使わずに解消するという意味でも貢献する事業となっています。

移住した高齢者が活躍できる土壌をつくる

Q:移住者が活躍するために、どのような取り組みを行うことを予定していますか。

A:入居者の方全員に身につけていただく必須スキルを二つ設けています。一つめはホシノマチ団地のスタッフになれる資格です。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の常駐スタッフには資格要件があります。サ高住のスタッフになれる資格として、全員に介護職員初任者研修を取得していただきます。
二つ目はIT関係の最低限のスキルです。例えば、インバウンドで海外からの旅行者の方と50歳以上のシニアの登録者をマッチングして、味噌汁をふるまう、折り紙を教えるといった日本の文化を提供するサービスがあります。そうした、ネット上のマッチングサービスを利用できる程度のITスキルを身につけていただきます。

Q:移住者の方で農業をやりたい方がいた場合、農地を借りることはできますか。

A:佐久市では荒廃農地にならないように、お金を払って専門業者に野菜をつくってもらっている農地があります。「無料でもよいから貸したい」という農地が多く、そういった農地をご紹介できますので、農地は借りやすい環境です。

移住者とつくっていく「ホシノマチ団地」のカタチ

Q:ホシノマチ団地への入居希望者からの問い合わせなど、反響はいかがでしょうか。

A:広告を見た方から問い合わせが入っています。また、昨年5月〜12月まで移住セミナー「佐久市生涯活躍のまちをつくる会」を開催していましたので、参加者の方には情報をお送りしています。セミナー参加者の方は移住に前向きに検討いただいています。

佐久市に魅力を感じていただいている方が多いですね。佐久平に位置しているため平坦な地形で視界が開けていること、標高700mくらいのため、空気が澄んでいて湿度が低く、夏は熱帯夜がありません。冬はマイナス10度になりますが、雪はほとんど降らないので雪かきの必要がないのも魅力です。それから、長野県でトップクラスの規模の佐久総合病院があるため、医療の面でも安心とおっしゃる方が多いですね。

Q:「ホシノマチ団地プロジェクト」で他に特徴的な取り組みはありますか。

A:2018年3月にプロポーザルで提案が採択されていますが、5月から「佐久市生涯活躍のまちをつくる会」で移住希望者の方などから意見を聞いてつくり上げています。例えば、「食事はスタッフがつくって提供しましょうか」と提案していたところ、キッチンが充実しているため、「自炊するからいい」という意見が多数を占めました。一方で、週1回くらい集まって食事ができるように「shoku_ba」と名付けた集会所を設けました。「shoku_ba」の「shoku」には「食」と「職」の意味があります。「集会所行ってくるよ」と言うよりも、退職した後、「shoku_ba行ってくるよ」と言えたほうが仕事をしている感覚でよいのではないかとの想いからです。

団地内に畑をつくることも提案しましたが、「隣の人のトマトが盗られている」「あの人の畑はすごく育っている」といったことで人間関係がこじれるより、それぞれ外に畑を借りるほうがよいということになりました。こうしたセミナーを通じてできたコミュニティが、そのままホシノマチ団地に引き継がれるイメージです。

Q:移住する方から地域になじめるか不安という声はありませんか。

A:移住希望者からは「地域になじめるか不安」、地域の住民からは「移住者が地域になじめるか不安」という声がありました。そこで、常駐するスタッフが仲介して、間をとりもつことをお話しています。ホシノマチ団地は下越団地の24戸の住戸のうちの16戸で、残り8戸のうち、1戸は市が運営する体験宿泊できる住戸、残り7戸は一般の住戸です。団地としてはもう1棟32戸あり、下越団地の自治会にも加入していただくので団地でのつながりもできると思います。

高齢者が地域で活躍する「生涯活躍のまち」を広げていく

Q:「ホシノマチ団地プロジェクト」はシニアタウンとして、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「目標11 住み続けられるまちづくり」に合致しているかと思います。「ホシノマチ団地プロジェクト」で目指していることを教えてください。

A:高齢者が住み続けられる街として、何歳まででも働き続けられる環境をつくっていくことも、今回のプロジェクトの肝だと考えています。できれば、起業をする人たちをつくっていきたいと思っています。単純に会社をつくるだけではなく納税をして、社会を引っ張って行く存在になる人が生まれていくとよいですね。

仕事をするには、ITによるマッチングサービスを利用する、農業をやるといった方法のほか、シルバー人材センターを利用するという方法もあります。佐久市の場合、シルバー人材センターで農業や庭の草むしり、介護など幅広い仕事があります。社会から必要とされることが、健康長寿にもつながるのではないでしょうか。

Q:日本版CCRCに関連して予定されている事業など、今後の展望をお聞かせください。

A:長野県佐久市とともに生涯活躍のまちとして内閣府が認定した山梨県都留市の生涯活躍のまち推進協会の事務局を委託されています。都留市ではマネンジメント側として入り、9月にサ高住がオープンしました。生涯活躍のまちの地域再生計画を提出した100の自治体のうち、実際にオープンしているのは都留市と秩父市、そして佐久市など限られているのが実情です。今後は事業者としての立場だけではなく、マネンジメントを行い、生涯活躍のまちの実現に寄与していきたいと考えています。

ホシノマチ団地は2019年の募集住戸は4戸ですが、2020年に4戸、2021年に8戸の募集を予定しており、プロジェクトしては今後も進行していきます。

移住した高齢者が地域に溶け込んで働き続けられる環境の構築を目指す「ホシノマチ団地プロジェクト」は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「目標11 住み続けられるまちづくり」にも合致し、新たなシニアタウンのあり方の提案ともいえるでしょう。